― 加水分解したミッドソールを根本改善し、長く履ける堅牢仕様へ ―


滋賀県にお住まいの H 様より、イタリアの名門登山靴メーカー Zamberlan(ザンバラン) の人気モデル「フジヤマ」をお預かりしました。ザンバランの中でもクラシックラインに位置するフジヤマは、日本の登山環境に合わせて設計された堅牢な作りが特徴的で、長年愛用される方が非常に多いモデルです。
ご相談内容は、ミッドソール部分の加水分解。特にザンバランの一部モデルに見られる「ポリウレタン(PU)ミッドソール」の経年劣化は避けがたい問題で、今回の靴もまさにその典型的な症状が出ていました。
◆ ミッドソールの状態:ポリウレタン素材の宿命「加水分解」

お預かりした段階で、ミッドソールに触れると ボロボロと崩れる、もしくは 指で押すと凹んだまま戻らない といった状態でした。ポリウレタンはクッション性に優れ、登山靴には適した素材ではあるものの、湿気や温度変化、経年によってどうしても分解してしまいます。
加水分解が進むと次のような問題が起こります:
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ソールの接着保持力が急激に低下
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歩行時にミッドソールが潰れて不安定に
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靴内部に粉状の残骸が入り込み、悪臭の原因にも
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アウトソールが剥がれる危険性が高まる
今回の靴も アウトソールの再利用は不可能 なレベルで、ソール交換は「部分修理」では対応できず、フルオールソール交換修理が必須 という判断になりました。
◆ 分解時に判明したもうひとつの問題
― ミッドソール下にある“塩ビ系素材”が劣化し接着性能を喪失

フジヤマモデルの多くでは、ミッドソールと本体の間に挟まれている層が塩ビ系素材で構成されています。今回この部分を確認したところ、
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表面が硬化
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接着剤が効かず剥離が多数
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触るとザラザラしており粘着性ゼロ
と、ソールをしっかり保持できる状態ではありませんでした。
このように、ミッドソールだけを交換しても塩ビ層が劣化したままでは、数ヶ月で再び剥がれるリスクが高くなります。そこで当店では、

→ EVAスポンジ製のミッドソールを新規で制作し直し
→ 本体に「出し縫い」でしっかり縫い直す
という、耐久性を重視した構造へと大きくアップデートする方法を選択しました。
◆ 新しく採用したミッドソール
EVAスポンジ × 厚手の補強ミッドソールで強度向上
EVAスポンジは、
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ポリウレタンのように加水分解しない
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軽量で耐久性が高い
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適度なクッション性があり疲れにくい
というメリットがあり、登山靴の修理では非常に適した素材です。
しかし、EVAは単体では柔らかいため、今回は**厚手のミッドソールを追加で挟み込む「二層構造」**にし、靴底として必要な強度と安定性を確保しました。

▼ 新ミッドソール構造
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下層:EVAスポンジ(クッション性・軽量性)
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上層:厚手ミッドソール(硬度・安定性)
この二層を「出し縫い」で靴本体にしっかり縫い付けることで、
純正以上の耐久性 を持つソールユニットに仕上がります。
◆ 仕上げのアウトソールは Vibram 1136

重厚でグリップ力が高い、登山靴の定番ラグパターン
アウトソールには Vibram(ビブラム)1136 を使用しました。
1136は伝統的な登山靴に多く採用されるラグソールで、
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深く刻まれたラグがぬかるみでもしっかりグリップ
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ゴム硬度が高く耐摩耗性に優れる
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クラシック登山靴の雰囲気にぴったり
という優れた特徴があります。
元のアウトソールよりもややゴツく感じられるかもしれませんが、登山靴としての実用性・耐久性は大幅アップしています。また、ミッドソールとの相性も良く、フジヤマの持つ本格的なアウトドア感を損なわずに仕上げることができます。
◆ 完成後の状態

見た目は “無骨” に、性能は “より強靭” に
修理後の靴を改めて見てみると、全体のプロポーションは大きく変わらず、ザンバランらしいクラシックな佇まいを保っています。ただし、
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ミッドソールが二層構造で強化
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Vibram1136の存在感
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出し縫いでしっかり固定
という点から、より無骨で頼れる一足に進化した印象です。
登山・トレッキング用途ではもちろん、長時間のハイキングや荷物を背負った歩行でも十分耐えられる強さに仕上がりました。
◆ 今回の修理ポイントまとめ
◎Before
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ポリウレタン製ミッドソールが加水分解
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塩ビ系素材の中間層の接着力が喪失
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アウトソールは再利用不能
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全体的に剥離が進み危険な状態
◎After
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EVAスポンジ+厚手ミッドソールの二層構造に刷新
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出し縫いで本体に強固に固定
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Vibram1136で重厚な仕上がり
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純正以上の耐久性
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加水分解の心配なく長く使える仕様へ改善
◆ 最後に
H様のザンバラン・フジヤマは、これまで大切に履き込まれてきた様子が強く伝わってくる一足でした。今回の修理で靴底を根本から作り直したことで、また長く相棒として活躍してくれるはずです。
加水分解後の登山靴は「もう寿命か…」と思われがちですが、素材選定と構造の見直しで、むしろ純正より長持ちする靴に生まれ変わることも可能です。
また何か気になる点があれば、いつでもご相談ください。