静岡県 M様 ニューバランス576 ヒールカップ交換修理
――樹脂製ヒールカップの加水分解による破損を、本革製ヒールカップで再構築しました――

今回は、静岡県のM様よりご依頼いただいた ニューバランス 576(NewBalance 576) の修理事例をご紹介いたします。

ニューバランスの中でも長年愛され続けている名作モデルで、特に英国製の576はクラシックラインの代表格として人気が高い一足です。履き心地の良さはもちろん、そのスタイルにも温かみがあり、長く愛用されている方も多いモデルですが、経年とともに避けられないトラブルのひとつが ヒールカップの加水分解 です。
◆ご依頼内容と状態確認

お預かりしたシューズを確認すると、かかと内部にある 樹脂製ヒールカップが加水分解を起こし、バキバキに割れて崩れてしまっている状態でした。靴の外側から触るだけでカパカパと音がし、歩行の安定感もほとんど失われています。
ヒールカップとは、かかと部分の形を保持する硬い芯材のことで、履いたときのホールド感や安定性を担っています。一般的に、スニーカーにはプラスチック系樹脂が使用されていることが多く、経年によって硬化・脆化が進むと割れて崩壊してしまうことがあります。特にニューバランスやNIKEなど、90年代〜2000年代のスニーカーでは加水分解のご相談は非常に増えています。
M様の576は、アッパー(甲革)は非常に綺麗に保たれており、まだまだ履ける状態でしたが、ヒールカップの崩壊により履き続けることができない状況でした。
◆修理方針についてのご説明
本来であれば純正に近い形の樹脂製カップでの交換を検討しますが、
このモデルに合う同等の樹脂製パーツは市場に存在しません。
そこで当店では、これまで多くの同様の修理に採用してきた方法として
本革で代用品となるヒールカップを新規製作し、内部に縫い付ける修理 を提案いたしました。
本革の利点は以下の通りです:
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経年劣化に強い(加水分解しない)
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足の動きに柔らかく馴染む
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強度と形状保持力がある
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手作りで靴に合わせて調整できる
また、靴の内部への固定には 八方ミシンを使用して縫い付け ます。
八方ミシンとは、一般的なミシンでは縫えない 立体的な靴内部、底周りなどの狭い場所を縫うことができる専用ミシン であり、靴修理の現場では欠かせない特殊な機械です。
◆修理工程の詳細
1. かかと周りの分解
まず、ライニング(内側の生地)を丁寧に開き、内部の崩壊したヒールカップを取り除きます。加水分解した樹脂は粉々になっているため、掃除だけでもかなり手間がかかります。細かい破片が残っていると履き心地に影響するため、慎重にすべて取り除きました。
2. 新しいヒールカップ(本革)を製作

靴本体の形状に合わせ、厚みやカーブを調整しながら立体的に成形します。
機械で抜いた板ではなく、手作業で削り込んで仕上げるため、フィット感の良い形に作り上げることができます。
3. 八方ミシンで縫い付け
革で作成したカップを靴内部に納め、八方ミシンを使ってしっかり縫い付けます。
八方ミシンは縫う方向を360度自由に変えることができるため、複雑な構造のかかと部分でも確実に縫い込むことが可能です。縫い付けることで芯材のズレを防ぎ、長期間安心して履ける仕上がりになります。
4. ミッドソールとアウトソール間の剥がれ補修

ミッドソールとアウトソールの間に軽い剥がれが確認できたため、こちらも同時に修理しました。

古い接着剤を剥がし丁寧に下処理し、専用ボンドで圧着。部分的な剥がれでも放置すると大きな破損につながるため、非常に重要な工程です。
5. 内装を元に戻し仕上げ
ライニングを丁寧に閉じ、形を整えて完成。
外観は大きく変わることなく、履き心地と強度が新しく蘇りました。
◆修理後の状態と今後のアドバイス

新しいヒールカップは本革製のため、今後 加水分解による破損が起こる心配はありません。
履き込むほどに足に馴染んでいき、純正以上の快適なホールド感が得られるようになります。
アウトソールの接着も再強化していますので、安心してまた長くご愛用いただけます。
◆職人としての想い
ニューバランス576のように、長く履きたいと多くの方が感じる名品モデルこそ、修理によって生き返らせる価値があります。
「まだ履けるのに、壊れた部品が手に入らないから買い替えしかない」
そんな状況を救えるのが、靴修理の役割だと考えています。
M様、この度は大切な一足をお預けいただきありがとうございました。
これからも永く快適に履いていただけますと幸いです。
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