今回ご紹介する修理事例は、兵庫県にお住まいのK様よりお預かりした New Balance(ニューバランス)576 の修理です。

ニューバランス576は、クラシックなデザインと高い履き心地で、長年愛され続けている定番モデルのひとつです。特にイングランド製モデルはファンも多く、「多少傷んでも直しながら履き続けたい」と考える方が非常に多いスニーカーでもあります。
そんな576ですが、今回K様からご相談いただいたのは、かかとの外側に取り付けられている樹脂製ヒールカップの破損でした。

修理前の状態|ヒールカップの加水分解による割れ
お預かりしたニューバランス576を確認すると、ヒール外側に取り付けられている樹脂製のヒールカップが、経年劣化によって加水分解を起こし、ひび割れから完全に割れてしまっている状態でした。

このヒールカップは、単なる装飾ではなく、
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かかとの形状を安定させる
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着地時のブレを抑える
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踵周りのホールド感を高める
といった重要な役割を担っています。
そのため、ヒールカップが割れたまま履き続けると、
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かかとが不安定になる
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歩行時に違和感が出る
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靴本体の革や布地に余計な負担がかかる
といった問題が発生します。
ニューバランス576に多い「樹脂パーツの加水分解」
ニューバランス576に限らず、90年代〜2000年代に製造されたスニーカーには、ポリウレタンや塩ビ系素材の樹脂パーツが多く使われています。
これらの素材は、時間の経過とともに空気中の水分と反応し、加水分解を起こします。
加水分解が進行すると、
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表面がベタつく
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ひび割れが発生する
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最終的には粉々に崩れる
といった症状が現れます。
今回のヒールカップも、まさにこの典型的な経年劣化によるものと言えます。
純正部品が手に入らないという現実
ニューバランス576のヒールカップは、純正部品としての供給がほぼありません。
メーカー修理でも対応不可となるケースが多く、「直せないから処分するしかない」と諦めてしまう方も少なくありません。
しかし、いずみ靴店では、
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オリジナル形状をできる限り再現
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素材を変えて耐久性を向上
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今後も長く履ける構造にする
という考え方で、代替素材による修理をご提案しています。
修理方針|本革によるヒールカップの製作
今回の修理では、同じような樹脂製ヒールカップが入手できないため、本革を使用してヒールカップを一から製作する方法を採用しました。
本革を使うメリットは、
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加水分解しない
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経年変化を楽しめる
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靴本体との馴染みが良い
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強度と柔軟性のバランスが良い
といった点にあります。
スニーカーに革を使うことに不安を感じる方もいらっしゃいますが、実はニューバランスのアッパー自体にも天然皮革が多く使われており、相性は決して悪くありません。
作業工程① 破損したヒールカップの取り外し
まずは、加水分解して割れてしまった樹脂製ヒールカップを、慎重に取り外します。
この工程では、靴本体のアッパーや内側のヒールカウンターを傷めないよう、細心の注意が必要です。
劣化した樹脂は非常にもろく、無理に外そうとすると周囲まで裂けてしまうため、少しずつ状態を見ながら分解していきます。
作業工程② 革の選定と型取り
次に、本革素材の選定を行います。
今回は、ある程度のコシがありながらも、足当たりが硬くなりすぎない革を使用しました。
元のヒールカップの形状を参考にしながら、
を細かく調整し、型紙を作成します。
この工程が仕上がりの良し悪しを大きく左右するため、時間をかけて慎重に行います。
作業工程③ 本革ヒールカップの成形
型紙をもとに革を裁断し、立体的に成形していきます。
平面の革を、かかとの丸みに合わせて立ち上げていく作業は、経験と感覚が必要です。
ここで無理な力をかけると、後々シワや浮きの原因になるため、少しずつクセをつけながら形を作ります。
作業工程④ 八方ミシンによる縫い付け

成形した本革ヒールカップは、八方ミシンという特殊な工業用ミシンを使って、靴本体に縫い付けていきます。
八方ミシンは、
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円筒状のもの
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立体構造のパーツ
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通常のミシンでは縫えない箇所
を縫うための、非常に専門性の高いミシンです。
スニーカーのヒール周りを縫製するには欠かせない設備で、どの靴修理店にもあるものではありません。
縫い目のピッチや糸のテンションを調整しながら、見た目と強度の両立を図ります。
仕上がりと完成後の状態

縫い付けが完了すると、本革製のヒールカップがしっかりとかかとを包み込み、安定感のある仕上がりになりました。
見た目も違和感が少なく、元々の576の雰囲気を大きく損なうことはありません。
樹脂製とは違い、今後は割れや加水分解の心配がないため、長期的に安心して履いていただけます。
修理を検討されている方へ
ニューバランス576のヒールカップ割れは、決して珍しい症状ではありません。
「もう直らない」と諦めてしまう前に、素材や構造を工夫することで、修理が可能なケースも多くあります。
いずみ靴店では、今回のように、
といった靴でも、状態を見極めた上で最適な修理方法をご提案しています。
修理内容まとめ
大切な一足を、これからも長く履き続けたい方は、ぜひ一度ご相談ください。