東京都S様 ジャーマントレーナー
加水分解したソールをオールソール交換で再生した修理事例

今回ご紹介するのは、東京都にお住まいのS様よりお預かりした、ジャーマントレーナーのオールソール交換修理事例です。
シンプルで無駄のないデザイン、そして軍用トレーニングシューズをルーツに持つ機能美で、長年多くのファンに愛されてきたジャーマントレーナー。S様もまた、この一足を大切に履き続けてこられたとのことでした。
しかし、見た目にはまだ履けそうに見える状態でありながら、靴底内部では深刻な劣化が進行していました。その原因が、多くのスニーカーやカジュアルシューズに見られる「加水分解」です。
見えないところで進行する「加水分解」という劣化

ジャーマントレーナーをはじめ、現代の靴に多く使用されているミッドソール素材には、ポリウレタンが使われていることが少なくありません。
このポリウレタンは、軽さやクッション性に優れる反面、水分や湿気、経年によって化学的に分解される性質を持っています。
これがいわゆる「加水分解」と呼ばれる現象です。
加水分解が進行すると、
-
ソールが硬化する
-
内部がボロボロと崩れる
-
靴底が剥がれる、割れる
-
履いていないのに劣化が進む
といった症状が現れます。
S様のジャーマントレーナーも、まさにこの状態でした。表面上はまだ形を保っていましたが、実際に分解してみると、ミッドソール部分は指で触れるだけで崩れてしまうほど脆くなっていたのです。
この状態では、部分的な補修や接着だけでは対応できません。
そこで今回は、オールソール交換修理をご提案しました。
劣化したソールを完全に取り除く分解工程

オールソール交換修理の第一歩は、既存のソールをすべて取り外すことです。
加水分解したソールは、見た目以上に内部が弱くなっているため、慎重に分解作業を進めます。
無理な力をかけると、アッパー(甲革)側を傷めてしまう恐れがあるため、
-
接着面を少しずつ剥がす
-
劣化した素材を丁寧に除去する
-
古い接着剤を完全に取り除く
といった工程を、時間をかけて行います。

特にジャーマントレーナーは、アッパーのラインが美しく、側面の処理が仕上がりに大きく影響します。
この下準備をどれだけ丁寧に行うかで、最終的な完成度が決まると言っても過言ではありません。
側面の接着跡を本革でカバーする理由
今回の修理で特徴的なのが、側面の接着跡処理です。
オールソール交換を行うと、どうしても元のソールを剥がした痕跡が側面に残りやすくなります。
そこで今回は、側面全体に本革を縫い付ける処理を施しました。
この方法には、いくつものメリットがあります。
-
接着跡を自然に隠せる
-
見た目に高級感が出る
-
靴全体の耐久性が向上する
-
修理後のデザインとして完成度が高い
単に「直した靴」ではなく、**「ひとつ上の仕上がり」**を目指すための重要な工程です。
縫い付ける位置や革の厚み、色味のバランスにも細心の注意を払い、ジャーマントレーナー本来の雰囲気を損なわないよう仕上げています。
EVAスポンジで作るウェッジソール

新しく作成するミッドソールには、EVAスポンジを使用しました。
EVAは、軽量でクッション性が高く、さらに加水分解を起こしにくい素材として知られています。

今回は、EVAスポンジを積み上げることで、
-
元のシルエットに近い厚み
-
自然な傾斜を持つウェッジ形状
-
長時間歩いても疲れにくい履き心地
を実現しています。
削り出しによって細かなラインを整え、横から見た時のフォルムにも妥協はありません。
見た目と機能性、その両方を高いレベルで成立させることを意識しました。

アウトソールはVibram1220で最終仕上げ

アウトソールには、Vibram1220を採用しています。
このソールは、
-
適度なグリップ力
-
街履きに適した耐摩耗性
-
ジャーマントレーナーと相性の良いデザイン
といった特長を持ち、日常使いから長時間の歩行まで幅広く対応できます。
EVAミッドソールとの相性も良く、軽快な履き心地を損なうことなく、安心感のある足取りをサポートしてくれます。
「もう履けない」から「まだまだ履ける」へ

修理完了後のジャーマントレーナーは、見た目にも、履き心地にも、新しい命が吹き込まれました。
加水分解によって寿命を迎えかけていた一足が、これから先も長く履き続けられる靴へと生まれ変わった瞬間です。
S様にも仕上がりをご確認いただき、大変喜んでいただくことができました。
思い出の詰まった靴を、これからも

靴は、ただの履物ではありません。
歩いてきた時間、過ごしてきた日常、そのすべてが刻まれています。
私たちは、そんなお客様の思い出が詰まった一足一足を大切に、丁寧に修理しています。
加水分解してしまったからといって、諦める必要はありません。
「これはもう無理かも…」
そう思う前に、ぜひ一度ご相談ください。