長野県 A様 NIKE エアフォース・ワン ソール内クッション交換修理

今回修理をご依頼くださいましたのは、長野県A様のNIKE・Air Force 1(エアフォースワン)です。
ナイキを代表する名作モデルであり、長年愛用される方の非常に多いスニーカーですが、その構造上避けられないトラブルのひとつが「ミッドソール内部のクッション素材の加水分解」です。

お預かりした状態を確認しますと、まず靴底の縫い目部分が浮き上がり、触れると白い粉状のものが溢れてくる状態でした。この症状は、外から見ただけではわかりにくいものの、内部クッションが崩壊している典型的なサインです。
加水分解は湿気や経年によって起こる化学反応で、ウレタン素材が空気中の水分と結合し、次第に柔軟性を失って破断→粉化していきます。ナイキのエアソール搭載モデルでは特に多く見られる症状で、内部構造が崩れてしまうと元のエアーバッグやクッション素材を再利用することはほぼ不可能になります。
今回も例外ではなく、内部を開いてみるとクッション部分は完全に粉状となり、本来の形状を保てていませんでした。ただ、エアバッグが使用されていた痕跡となる透明ビニール膜の一部が残っており、元々の構造が想像できる状態ではありました。
■ 分解工程 ― 内部損傷の原因確認

まずはソールとアッパーを慎重に分離し、ミッドソール内部へアクセスします。エアフォースワンは構造的に接着と縫製(オパンケ縫い)が併用されているため、ただ剥がすだけではなく縫製部分の処理が重要になります。

縫い上げ糸を切りながらソールを剥がしていくと、中から大量の粉が出てきました。クッション素材は完全に崩壊し、握れば崩れる程度の状態。これは、湿気・劣化・気候差などによる加水分解が進行し、素材本来の性能を失った典型例です。
ソール内部の粉を完全に除去する必要があるため、エアバッグ残骸・分解したクッション・接着剤片・埃まで、全てきれいに取り除きます。ここで掃除が甘いと新しい素材の密着性や内部安定性に影響が出るため、慎重に作業を進めます。
内部がすべて露出した段階で、今後どのような方法でクッション再構築を行うかを判断します。
■ 代替クッション素材 ― EVAスポンジの採用理由
オリジナルのエアバッグを再現することは構造上不可能ですが、重要なのは「履き心地を極力近づけること」と「今後同じ箇所が劣化しにくいこと」です。
そこで今回採用したのがEVAスポンジ素材。
EVA素材には以下のメリットがあります:
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加水分解しない
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ほどよいクッション性と反発性を持つ
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劣化がゆっくりで寿命が長い
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左右差・加重差に応じカット調整がしやすい
元のエアバッグとは構造は違いますが、実際の履き心地としては充分柔らかく、また歩行時の沈み込みや衝撃吸収性を確保できます。
内部構造は靴ごとに微妙な差があるため、ただスポンジを入れる訳ではありません。厚み調整・成形・屈曲ポイントの加工を行い、靴が元々持っている踏まずラインや踵のホールド性を損なわないよう調整します。
ここでミリ単位の加工が必要となるため、ハンドで削りながらフィッティングを調整。最終的に、歩行時の沈み込み・返り・荷重バランスが自然になるよう仕上げています。
■ 再セット・接着工程
成形したEVAクッションをミッドソール内部にセットした後、ソールを戻して接着固定します。接着剤の種類・塗布量・圧着時間などは靴の素材・用途に応じて変えています。焦って圧着すると後々の剥がれや履きジワの偏りが出るため、しっかり時間を置いて定着させます。
元通りソールが固定できたら、空気抜け・段差・縫いアタリをチェックし、構造的な問題がないことを確認します。
■ 縫製仕上げ ― オパンケ縫いによる補強

最後に、エアフォースワンを象徴する構造であるオパンケ縫いを施します。
外周をぐるりと囲むこの縫製は見た目の特徴でもありますが、構造的には強度のための縫いです。
接着のみでは経年で剥がれる可能性がありますが、このオパンケ縫いがあることでソール全体がしっかり固定され、 長期使用でも剥がれにくくなります。
縫い目の間隔・幅・縫いのテンションを調整しながら、元々の雰囲気を損なわないよう自然に仕上げています。
■ 修理完了 ― 再び歩けるスニーカーへ

修理前は粉化・内部崩壊で歩行時に沈み込みが生じ、履くこと自体難しい状態でしたが、修理後は内部構造が安定し、歩き心地も大きく改善されました。
オリジナルのエア構造とは異なるものの、実用性・耐久性はむしろ高くなっています。
「中身が崩れているスニーカーは修理できない」
そう思われる方は多いですが、適切な方法を選べばまだまだ履けます。
A様にもぜひ、また長く快適に履いていただければ嬉しく思います。
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