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岩手県 H様 ニューバランス1300 シュータン(ベロ)加水分解によるスポンジ交換・表皮張り替え修理

今回ご紹介するのは、岩手県にお住まいのH様よりご依頼いただいた、ニューバランス1300の修理事例です。


ニューバランス1300は、1985年に登場したフラッグシップモデルとして知られ、履き心地の良さと高級感のある佇まいから、現在でも非常に人気の高いモデルです。特にUSA製1300は、コレクション性も高く、「できるだけ長く履き続けたい」と考えるオーナー様が多い一足でもあります。

しかし、どんな名作スニーカーであっても、経年劣化からは逃れられません。今回のH様の1300も、まさに時間の経過によって起こる典型的なトラブルを抱えた状態でした。


■ ご相談内容とシュータンの状態

H様からのご相談は、シュータン(ベロ)部分の劣化についてでした。
具体的には、シュータン内部のスポンジと、外側を覆っている表皮素材が加水分解を起こしているという内容です。

実際に拝見すると、表皮部分はボロボロと崩れ、指で触るだけで粉状になって剥がれ落ちてしまう状態でした。
また、内部のスポンジも劣化が進み、弾力を完全に失ってスカスカになっています。そのため、シュータンが自立せず、履くたびにクシャっと潰れてしまい、見た目だけでなく履き心地にも大きな影響が出ていました。

この症状は、1980〜90年代のニューバランスによく見られるもので、ポリウレタン系スポンジと合成皮革の加水分解が原因です。
保管環境や使用頻度に関わらず、素材の寿命として発生してしまうため、「大切に履いていたのに突然こうなった」というご相談も少なくありません。


■ 部分補修では対応できない理由

シュータンの劣化に対して、「表面だけ貼り直せば直るのでは?」と思われる方もいらっしゃいます。
しかし、今回のように内部スポンジまで劣化している場合、表皮のみの補修では根本的な解決になりません。

スポンジが劣化したままでは、
・シュータンが安定しない
・足の甲への当たりが悪くなる
・再びすぐに形が崩れる

といった問題が残ってしまいます。
そのため今回は、シュータンを一旦靴本体から取り外し、内部構造から作り直す修理をご提案しました。


■ シュータン取り外し作業

まずは、シュータンを靴本体から丁寧に取り外します。
ニューバランス1300のシュータンは、アッパーとしっかり縫い込まれているため、無理に外すと周囲の革や縫製を傷めてしまいます。

縫い目を一針ずつ確認しながら糸を解き、アッパー側にダメージが出ないよう慎重に分離していきます。この工程は地味ですが、仕上がりを左右する非常に重要な作業です。


■ スポンジの入れ替え

シュータンを分解すると、内部のスポンジは原形を留めないほど劣化していました。
弾力はなく、押すと崩れる状態で、クッション材としての役割はほぼ果たしていません。

ここで、新しいスポンジへ完全に入れ替えを行います。
厚み・硬さ・反発力のバランスを考え、元の履き心地を損なわないよう素材を選定します。単に硬いスポンジを入れれば良いというわけではなく、履いたときの足当たりを想定しながら調整する必要があります。

このスポンジ交換によって、シュータンはしっかりとした芯を取り戻します。


■ 表皮を本革で張り替え

次に、劣化していた表皮部分を本革で張り替えます。
元々の合成皮革は加水分解を起こしていましたが、本革にすることで今後同じトラブルが起きる可能性を大幅に減らすことができます。

革の厚みや質感を調整しながら、シュータンの形状に合わせて裁断し、丁寧に縫製していきます。
この縫製には、立体物の縫い付けに欠かせない八方ミシンを使用します。

八方ミシンは、通常の平ミシンでは縫えない筒状・立体形状を、そのままの形で縫製できる特殊なミシンです。
シュータンのように曲面が多いパーツでは、このミシンがあるかどうかで仕上がりに大きな差が出ます。


■ ロゴマークの再縫い付け

表皮を張り替えた後は、元々付いていたニューバランスのロゴマークを元の位置に縫い付けます。
ロゴの位置がズレると全体の印象が大きく変わってしまうため、慎重に位置を確認しながら縫製します。

細かな作業ではありますが、「見た目の完成度」を高めるためには欠かせない工程です。


■ シュータンを靴本体へ再縫製

すべての工程が終わったら、シュータンを靴本体へ縫い付け直します。
取り外す前と同じ位置・角度になるよう調整し、左右のバランスも確認しながら仕上げていきます。

縫い付け後は、シュータンがしっかりと自立し、履く際にも潰れずスムーズに足入れできる状態になりました。


■ 修理後の仕上がりと履き心地

修理後は、見た目が大きく改善されただけでなく、機能面でも大きな変化がありました。
シュータンがしっかり立ち上がることで、足の甲へのフィット感が向上し、履き心地も格段に良くなっています。

本革表皮にしたことで、今後は経年変化を楽しみながら、長く安心して履いていただける仕様となりました。

H様にも仕上がりをご確認いただき、「これでまた快適に履けます」と喜んでいただけました。
お気に入りの一足を、修理しながら使い続ける——そのお手伝いができたことを嬉しく思います。

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