長野県にお住まいのA様より、大切に履き続けてこられたNIKE エア・ジョーダン1の修理をご依頼いただきました。
今回お預かりした一足は、外観こそ比較的良好な状態を保っていたものの、経年劣化によるソール内部の深刻な加水分解が進行しており、歩行時には靴底から細かな粉が吹き出すような状態となっていました。

エア・ジョーダン1は、スニーカー史において極めて重要なモデルであり、単なる履き物以上の価値を持つ存在です。A様にとっても、長年履き込んできた思い入れのある一足であり、「可能な限り長く履き続けたい」という強いお気持ちが伝わってきました。
その想いに応えるべく、今回は内部構造まで踏み込んだ本格的な修復作業を行いました。
■ 症状の原因|エアークッションの加水分解

エア・ジョーダン1のソール内部には、クッション性を高めるためにポリウレタン系素材やエアークッション構造が使用されています。
これらの素材は、使用頻度に関わらず「時間の経過」そのものによって劣化が進むという特性を持っています。
特に日本のような高温多湿な環境では、
といった条件が重なることで、ポリウレタンは加水分解を起こし、
・弾力を失う
・粉状、またはスポンジ状に崩壊する
といった状態になります。
今回のジョーダン1も例外ではなく、アウトソール自体は形を保っているものの、内部のエアークッションが完全に崩壊し、歩行に耐えられない状態となっていました。
■ 修理工程①|慎重なソール分解作業

まず最初に行うのは、ソールの分解作業です。
エア・ジョーダン1は、一見シンプルな構造に見えますが、実際には複数の素材が積層され、接着剤で強固に固定されています。
無理に剥がすと
といったリスクがあるため、温度管理を行いながら、時間をかけて丁寧に分解していきます。
分解後、内部を確認すると、予想通りエアークッション部分は加水分解により粉々になっており、本来のクッション機能は完全に失われていました。
■ 修理工程②|劣化素材の完全除去
次に重要なのが、劣化した素材を徹底的に取り除く作業です。
加水分解したポリウレタンが少しでも残っていると、
・新しい素材との接着不良
・再劣化の原因
となってしまいます。
そのため、
を繰り返し、内部を“ゼロの状態”に戻すことを意識して下地処理を行いました。
この工程は見えない部分ですが、仕上がりと耐久性を大きく左右する、非常に重要な作業です。
■ 修理工程③|EVAスポンジによる新クッション製作

内部構造を整えた後、新しいクッション材としてEVAスポンジを採用しました。
EVAスポンジは
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軽量
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適度な弾力
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加水分解しにくい
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長期使用に強い
といった特性を持ち、今回のような修理には最適な素材です。
オリジナルの履き心地を意識しながら、
・厚み
・硬度
・足当たり
を微調整し、A様の足に自然に馴染むクッション形状を一から作り直しました。
■ 修理工程④|接着とオパンケ縫いによる補強

新しいクッションをセットした後は、高強度の専用接着剤を使用して圧着します。
しかし、スニーカー修理において接着のみでは、将来的な剥がれのリスクがゼロにはなりません。
そこで今回は、側面にオパンケ縫いを施しました。
オパンケ縫いとは、
ソール側面からアッパーと底材を直接縫い合わせる技法で、
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接着だけに頼らない構造
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剥がれにくさ
-
見た目のアクセント
を同時に実現できる、非常に高度な修理技術です。
一針一針、ミシンのテンションと針角度を調整しながら、ジョーダン1のデザインを損なわないよう慎重に縫製しました。

■ 仕上がりと履き心地
すべての工程を終え、最終チェックを行った結果、
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ソールの剛性感
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クッションの反発力
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歩行時の安定性
いずれも良好で、実用に耐える一足へと完全に復活しました。
見た目はオリジナルの雰囲気を保ちつつ、内部構造は現代的で耐久性の高い仕様へと生まれ変わっています。

■ 最後に|大切な一足を、これからも
スニーカーは消耗品である一方、思い出や時間が詰まった「相棒」のような存在でもあります。
「もう履けないかもしれない」と感じた靴でも、適切な修理を行えば、再び日常で活躍させることが可能です。
A様のエア・ジョーダン1も、これからまた新しい時間を共に刻んでいくことでしょう。
加水分解やソール劣化でお困りの方は、ぜひ一度ご相談ください。
職人の技で、あなたの大切な靴に新たな息吹を吹き込みます。