オフィシャルブログ

大阪府m様 フットジョイ・アイコン フルリニューアル修理事例  加水分解を原因に

こんにちは。今回は、大阪府にお住まいのM様よりお預かりした、フットジョイの名作ゴルフシューズ「アイコン(ICON)」モデルのフルリニューアル修理事例をご紹介します。

クラシックな佇まいと上質な作りで、長年多くのゴルファーに愛されてきたフットジョイ・アイコン。しかし、どれほど完成度の高い靴であっても、経年劣化だけは避けて通れません。今回お預かりした一足も、外観は比較的きれいな状態を保っていたものの、内部では素材の劣化が静かに、しかし確実に進行していました。

■ ご依頼のきっかけと靴の状態

M様からのご相談内容は「ソールが劣化してきたので、これからも安心して履けるように修理したい」というもの。詳しく拝見すると、ミッドソールに使用されているポリウレタン素材が加水分解を起こしており、内部ではボロボロと崩れ始めている状態でした。

ポリウレタンは、クッション性や軽さに優れる一方で、水分や湿気の影響を受けやすく、一定の年数が経過すると加水分解によって劣化してしまう性質があります。特にゴルフシューズは、芝生の水分や雨、保管環境の影響を受けやすいため、こうした症状が出やすいジャンルの靴でもあります。

今回は部分修理では根本的な解決にならないと判断し、思い切ってオールソール交換によるフルリニューアルをご提案しました。

■ スパイクレス化という選択

もうひとつの大きなポイントが「スパイクレス化」です。オリジナルはスパイク付きのゴルフシューズですが、M様からは「普段の練習やラウンドで、より歩きやすく、汎用性の高い仕様にしたい」というご要望がありました。

そこで今回は、スパイクを使わないスパイクレス仕様に変更することに。これにより、ゴルフ場はもちろん、移動時や練習場でも扱いやすく、現代的な使い方ができる一足へと生まれ変わります。

■ ソール分解作業

まずは既存ソールの分解から作業を開始します。フットジョイ・アイコンは、比較的一体型の構造で、ソールはボンド接着が主体となっています。

この構造のおかげで、熱を加えながら慎重に作業を進めることで、比較的スムーズにソールを分解することができました。ただし、内部のポリウレタンは想像以上に劣化が進んでおり、触れると粉状になって崩れ落ちる状態です。

加水分解した素材を中途半端に残してしまうと、再接着や縫い付けの強度に悪影響を及ぼすため、劣化部分は徹底的に除去します。地味ですが、仕上がりと耐久性を左右する非常に重要な工程です。

■ EVAスポンジミッドソールの製作とマッケイ縫い

次に、新しいミッドソールの製作に入ります。今回採用したのは、加水分解の心配がほとんどないEVAスポンジ素材です。

EVAは、軽量でクッション性に優れ、なおかつ経年劣化に強いという特性を持っています。ゴルフシューズのように長時間歩行する靴には、非常に相性の良い素材です。

このEVAスポンジを靴の形状に合わせて成形し、マッケイ縫いで靴本体に直接縫い付けていきます。マッケイ縫いは、足裏の感覚がダイレクトに伝わりやすく、屈曲性にも優れる製法です。

見た目はシンプルですが、ミシンの角度やテンション管理が難しく、確かな技術が求められます。クラシックな靴の雰囲気を損なわず、かつ実用性を高めるために最適な選択と言えるでしょう。

■ ヒール部のEVA成形

ミッドソールに続いて、ヒール部分もEVAスポンジで新たに製作します。既製品をそのまま使うのではなく、元のシルエットやバランスを意識しながら、丁寧に削り出して高さや形状を調整しました。

ゴルフシューズにおいてヒールの安定感は非常に重要です。スイング時の体重移動や歩行時のバランスを考慮し、過不足のないボリュームに仕上げています。

■ Vibram 419C スパイクレスソールの装着

アウトソールには、Vibram(ヴィブラム)社の419Cスパイクレスソールを採用しました。このソールは、グリップ力と耐久性のバランスに優れ、ゴルフ用途としても非常に評価の高いモデルです。

芝生の上でもしっかりとした安定感を発揮しつつ、スパイク特有の硬さがないため、歩行時の快適性も向上します。クラシックなアイコンの雰囲気とも相性が良く、違和感のない仕上がりになりました。

接着後は、全体のバランスや接地感を細かくチェックし、必要に応じて微調整を行って完成です。

■ 修理を終えて

こうして完成したフットジョイ・アイコンは、見た目こそクラシックなままですが、中身は現代的で実用性の高い一足へと生まれ変わりました。加水分解の不安から解放され、これからも長く安心して履いていただけます。

M様にも仕上がりをご確認いただき、「これならまた何年も使えそうですね」と嬉しいお言葉を頂戴しました。職人として、これ以上ない瞬間です。

古き良きものに新たな命を吹き込み、持ち主の思い出とともに未来へつなぐ。それこそが、私たち靴修理職人の使命だと改めて感じた一足でした。

Translate »