兵庫県のM様より、長年愛用してこられたNew Balance(ニューバランス)576の修理をご依頼いただきました。お預かりして状態を確認したところ、
- 樹脂製ヒールカップの加水分解
- ソールのヒール部分の大幅な摩耗
- ミッドソールのEVAスポンジまで削れている
という、ニューバランス修理のなかでも特によく見られる3つのダメージが重なった状態でした。この記事では、実際に行った「ヒールカップ交換」と「オールソール交換」の全工程を職人の視点からご紹介します。「お気に入りの576がこのような状態でも、修理で再び履ける」ということを、ぜひ参考にしてみてください。

ニューバランス576のヒールカップがボロボロになる原因――「加水分解」とは
576をはじめとするニューバランスのスニーカーには、かかとを安定させるための樹脂製ヒールカップが、ヒールの外側を覆うように取り付けられています。この樹脂は、空気中の湿気や水分と長い年月をかけて反応すると、徐々にもろくなり、パリッと割れたり、ボロボロと崩れたりする「加水分解」という劣化を起こします。
加水分解は経年劣化の一種です。保管状態や使用頻度に関わらず、いつかは誰の靴にも起こりうる現象で、生地やソールがきれいでも「かかとの横の樹脂だけが粉を吹いたように崩れる」という形で現れます。576を長くお持ちの方には、見覚えのある症状ではないでしょうか。

ソールの摩耗が「ミッドソールまで」進んでいたら
もう一つの大きなダメージが、ソールの摩耗です。ヒール部分は歩行の着地で最も負荷がかかる場所です。減りをそのままにしていると、アウトソール(表底)だけでなく、内側のミッドソール(クッション層)まで削れてしまいます。
今回の576もまさにその状態で、EVAスポンジのミッドソールが削れ落ち、かかとの高さそのものが失われかけていました。ここまで進行すると、減った部分だけを補修する部分修理では強度と見た目の両立が難しく、靴全体のバランスも崩れやすくなります。そこで今回は、ソールまわりを根元から作り直す「オールソール交換」を選択しました。

修理工程①:加水分解したヒールカップを本革で製作・交換
最初に着手したのは、劣化したヒールカップの交換です。加水分解してボロボロになった樹脂製ヒールカップを丁寧に取り外し、本革から新しいヒールカップを製作して交換しました。
樹脂ではなく本革を採用することで、加水分解のような崩壊の心配がぐっと少なくなり、かかとのホールド感もしっかり確保できます。元の形を忠実に再現しながら仕上げていますので、履いているときの見た目の違和感も最小限です。

修理工程②:ミッドソールから作り直す「オールソール交換」
続いてソールの修理です。ミッドソールまで削れた576を部分修理で補うのではなく、アウトソールをすべて剥がして、ミッドソールから新しく作り直すオールソール交換を実施しました。
オールソール交換は、ソールの寿命そのものをリセットする工事です。削れて失われたかかとの分厚さを復元しながら、新しいソールを貼り込むことで、減りやすい状態から一歩抜け出した強度を取り戻せます。

修理工程③:EVAスポンジを積み重ねてウェッジソールを製作
失われたミッドソールは、EVAスポンジを積み重ねて再現します。EVAスポンジは軽量でクッション性に優れ、加水分解でボロボロになることが少ない素材です。
私どもはこのEVAスポンジを、靴の形状に合わせながら少しずつ削り出して、かかとの角度を再現したウェッジソールを製作しました。削り加減ひとつで履き心地とシルエットが変わるため、何度もバランスを確認しながら進める、最も集中する工程です。
修理工程④:アウトソールにはVibram(ビブラム)298Cを採用
新しいアウトソールには、Vibram(ビブラム)298Cを使用しました。
Vibram 298Cは、スニーカーのオールソール交換で人気の高いラバーソールです。つま先がやや巻き上がった形状で、巻き上げのあるスニーカーとの相性がよく、ソール面の刻み模様が靴の返りを良くしてくれます。耐久性とグリップ力のバランスに優れたソールですので、「修理したのに歩きにくくなった」という心配も少ない素材です。
仕上げの段階では、New Balance 576の雰囲気をできるだけ損なわないよう、ソールの厚みや色のバランスを確認しながら整えています。

仕上がり――「お気に入りの576」がそのまま帰ってくる
完成した576は、崩れていたヒールカップが本革の新しいものに生まれ変わり、削れていたヒールはEVAスポンジのウェッジソールで高さとクッション性を取り戻しています。シルエットや色の雰囲気も保たれていますので、「修理した感」を感じさせない仕上がりを目指しました。これで、M様にも安心して長く履いていただけます。

よくあるご質問
Q1. 樹脂のヒールカップが割れても修理できますか? A. できます。純正パーツの入手が難しいモデルでも、本革などで形を再現して交換することが可能です。
Q2. ソールが減ってミッドソールまで削れています。直りますか? A. その場合は、部分修理ではなくオールソール交換で、ミッドソールから作り直すことをご提案しています。
Q3. 修理後も元の雰囲気のままですか? A. ソールのバランスは576のデザインを確認しながら仕上げています。状態を拝見したうえで、仕上がりイメージも含めてご提案します。
Q4. 費用や納期はどのくらいですか? A. 劣化の程度や選ぶソールによって内容が変わります。実物を確認のうえ、お見積もりと納期をご案内しますので、まずはご相談ください。
Q5. 576以外のニューバランスでも修理できますか? A. 加水分解やソール摩耗によるご相談は、他のモデルでも多くいただきます。靴の状態を確認して、最適な修理方法をご提案します。
お気に入りの靴を長く履くために
New Balanceのスニーカーは、ソールの摩耗だけでなく、長年の使用によって樹脂製のヒールカップが加水分解して割れたり、ボロボロになったりすることがあります。
「ニューバランス576のヒールカップが壊れた」 「ヒールカップを交換したい」 「ソールが減りすぎてミッドソールまで削れている」 「お気に入りのNew Balanceをもう一度履きたい」
そのように感じたら、諦める前に一度靴の状態を見せてください。ヒールカップ交換やオールソール交換など、その靴に合った修理方法をご提案します。
New Balance 576のヒールカップ交換やオールソール交換など、靴修理についてのご相談・お見積もりは、いずみ靴店までお気軽にお問い合わせください。お気に入りの靴を長く履くために、私ども修理の技術でお手伝いいたします。
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