長野県S様のザンバラン フジヤマ。加水分解で劣化したソールを、塩ビ系から合成ゴムのミッドソールへ縫い替え、EVA+Vibram1136でオールソール交換しました。登山靴の加水分解の原因・症状・「修理か買い替えか」の判断基準を、靴修理職人が工程写真つきで解説します。
長野県S様より、ザンバラン フジヤマのオールソール交換をご依頼いただきました
長野県のS様からお預かりしたのは、イタリア・ザンバラン(Zamberlan)の「フジヤマ」。登山靴のソールが加水分解によって劣化し、そのままでは安心して山を歩けない状態でした。
今回は、元とまったく同じデザインではありませんが、靴の構造や素材の特性を考慮し、これからも登山を楽しんでいただけるよう修理しています。本記事では、その修理内容とあわせて「登山靴のソールが加水分解したとき、どう判断すればいいのか」を詳しくお伝えします。

登山靴のソールの「加水分解」とは何か
ポリウレタンは、履かなくても劣化する
加水分解とは、水分と化学反応を起こして素材そのものが分解されていく現象です。近年の登山靴のミッドソール(アウトソールと本体の間にある衝撃吸収層)には、軽量でクッション性に優れたポリウレタン(PU)が広く使われています。このPUは、湿気を含んだ状態が続くと分子の結合が切れ、もろく崩れていきます。劣化の要因は水分だけではなく、カビやバクテリアによる微生物劣化、熱による酸化なども関わるとされています BACKCOUNTRY。
厄介なのは、使っていなくても進むという点です。長期保管していた登山靴を引っ張り出したらソールが崩れていた、というのは決して珍しい話ではありません 山旅豆知識。
加水分解が起きているサイン
- ソールの側面が白っぽく粉を吹いたようになる
- 指で押すと粘土のようにべたつく、ボロッと崩れる
- アウトソールとミッドソールの間に隙間・剥がれが出る
- 靴底が固くなり、硬い路面で滑りやすくなった
- 歩くたびに「パキッ」と音がする、踵が沈む
ひとつでも当てはまる場合は、一度専門店で点検を受けることをおすすめします。クッションが死んだ状態で長時間歩くと、足裏や膝への負担も大きくなります。

ザンバラン フジヤマというモデルについて
フジヤマは、ザンバランのジャパンモデルとして長く愛されてきた一足です。上質なスエードウォックスドレザーをアッパーに使い、日本人の足に合わせて設計された履き心地が特徴。製法はアッパーとソールを縫い合わせる伝統的なノルウェージャン製法で、現在は後継モデル「フジヤマ NW GT」が、ミッドソールにビブラム NorTrack を採用するなど進化を続けています 楽天市場。
つまりフジヤマは、アッパーが革で、ソールが縫い付けられているという、修理に非常に向いた構造を持った靴です。この点が、今回の修理方針を決めるうえでの出発点になりました。
今回の修理内容|オールソール交換の全工程
① 劣化したソールを取り外す
まず、加水分解で崩れたアウトソールとミッドソールを慎重に剥離します。ここで重要なのは、無理に引き剥がしてアッパー側の縫い代や革を傷めないこと。剥がした後は、付着した旧接着剤と劣化した素材の残りを、削りながら丁寧に除去していきます。
② ミッドソールの素材を選び直す
今回の修理でもっとも判断が難しかったのが、この素材選びです。

もともと縫い付けられていたのは塩ビ系(PVC系)のミッドソールでした。塩ビ系は接着剤との相性が良くなく、接着強度を確保しにくい素材です。そこで今回は、合成ゴム製のミッドソールに変更して縫い付ける方針としました。縫い付けができる素材を選ぶことで、接着だけに頼らない、より確実な固定が可能になります。
③ 縫い付けて、EVAとVibram1136で仕上げる
合成ゴム製ミッドソールを縫い付け、その上にEVAスポンジのミッドソールを取り付けてクッション性を確保。最後にアウトソールとして Vibram(ビブラム)1136 を貼り合わせ、ソール全体を作り直しました。
Vibram1136(ロッチャ)は、ビブラムを代表するブロックパターンのソールです。合成ゴム製で耐摩耗性に優れ、アウトドアの不整地はもちろん、アスファルトなど硬い路面にも適応します ビブラムソール#1136。登山道の岩場から下山後の舗装路まで、幅広く対応できるのは実用的な強みです。

それでも「修理して履く」という選択ができる理由
ソールが加水分解すると「もう捨てるしかない」と思われがちです。しかし、判断すべきはアッパー(革)の状態です。フジヤマのように革が健全で、縫製が生きていれば、ソールを丸ごと作り直すオールソール交換によって、再び山を歩ける状態に戻せます。
一方で、次のような場合は修理が難しいこともあります。
- アッパーの革が裂けている、縫い目が切れている
- 甲の部分が変形し、足を入れると痛みがある
- 内部のカウンターやシャンクが破損している
判断に迷う場合は、現物を見せていただくのが一番確実です。「この状態で直せるのか」を一緒に確認させていただきます。

よくあるご質問
Q. 修理期間はどれくらいかかりますか? A. ソールの在庫状況や混雑状況によって変わります。お預かり時におおよその目安をお伝えしています。
Q. 元のソールとまったく同じデザインになりますか? A. 加水分解した純正ソールが入手できない場合、同デザインでの再現はできません。今回はVibram1136を選定し、機能性を優先した構成としています。
Q. 修理費用はどのくらいですか? A. ソールの種類、ミッドソールの交換範囲によって異なります。無料でお見積りしますので、まずはご相談ください。
Q. ソールだけ交換すれば、また加水分解しますか? A. 新しいソールは劣化がリセットされますが、保管環境によって再び進行します。使用後は泥を落としてよく乾かし、風通しの良い場所で保管してください。ビニール袋に入れたままの長期保管は避けましょう。
まとめ|加水分解した登山靴も、あきらめる前にご相談ください
今回は、ザンバラン フジヤマのオールソール交換を行いました。塩ビ系から合成ゴムへのミッドソール変更、EVA、そしてVibram1136。素材ひとつを取っても、靴の構造に合わせた判断が必要です。
「大事な登山靴のソールが崩れてしまった」「これで山に登って大丈夫だろうか」。そう感じたら、シーズン前の点検も兼ねて、お気軽にご相談ください。
長野県S様、このたびはご依頼ありがとうございました! これからもザンバラン フジヤマで、楽しい山登りを満喫してください ⛰️
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