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山梨県 T様 NIKE エアジョーダン1 ソール内クッション交換とヒールカウンター交換修理

山梨県 T様 NIKE エアジョーダン1

ソール内クッション交換とヒールカウンター交換修理

山梨県よりお預かりしたのは、ナイキの名作「エアジョーダン1」。
1985年に登場して以来、スニーカー史を代表するモデルとして今なお人気の衰えない一足です。スポーツシューズとしての性能はもちろん、ファッションアイコンとしても地位を確立しており、まさに“履ける名作”といえるモデルです。

今回T様のエアジョーダン1は、一見するとまだまだ履けそうな状態でしたが、実際にソールを押すと「ペコペコ」とした不自然な感触。さらに、ヒールまわりには深いシワが入り、内部に本来あるはずの“硬い芯”の存在が感じられませんでした。


見た目以上に内部が傷んでいる典型的な症状であり、長年の経年劣化と素材の加水分解が疑われます。


■ ソール内部のクッション、加水分解で崩壊

まずはソールを分解して内部を確認します。


エアジョーダン1は本来、ソールの中に衝撃吸収用のクッション材が封入されています。古いモデルや長期間保管されたものでは、このクッションがウレタン系素材である場合が多く、湿気や温度変化により加水分解を起こしてしまいます。

今回もまさにそのケース。
ソールを剥がした瞬間、内部のクッション材がボロボロと崩れ落ち、粉末状になっていました。指で触れると粘着質の残留物が付着するほどの劣化ぶり。ここまで進行してしまうと、もはや機能は失われており、クッション性はゼロどころか、内部空間がスカスカになることで履き心地のバランスを崩してしまいます。

加水分解とは、空気中の水分を吸って化学的に分解されていく現象で、ウレタンや樹脂系の素材では避けて通れない宿命です。使用頻度に関わらず、時間の経過とともに進行していくため、「大切に保管していたのにいつの間にか壊れていた」というケースが多いのも特徴です。


■ ヒールカウンターも粉々に

次に問題となっていたのが、かかと部分の「ヒールカウンター」。


これは靴の後方を内側から支える“芯材”で、かかとをしっかりホールドし、型崩れを防ぐ重要なパーツです。

内張り(ライニング)をめくって内部を確認すると、予想通り樹脂製のカウンターが粉末状になっており、指で触るとサラサラと崩れ落ちる状態でした。これも加水分解による典型的な劣化です。
樹脂カウンターは成型時には非常に硬く安定した形を保ちますが、経年で内部に含まれる可塑剤が揮発し、やがて分子構造が壊れて脆くなります。その結果、履き皺とともにパリパリと割れ、ついには粉状に崩壊してしまうのです。

この状態では、かかとが支えを失い、履くたびに左右にぐらつくような不安定さが出ます。履き口まわりのシワや型崩れも進行してしまい、放置するとアッパーそのものが歪み、元のフォルムを保てなくなってしまいます。


■ 本革製ヒールカウンターで再構築

樹脂製カウンターは再利用できないため、新たに本革製のヒールカウンターを製作して交換します。


本革は熱成型によって柔軟かつ強靭に形状を保つことができ、何より経年変化に強いのが特徴です。革は時間とともに硬化することはあっても、樹脂のように粉々に崩壊することはありません。

足に当たる裏面にはライニングを貼り直し、革カウンターとの間に適度なクッション層を設けて、履き心地とホールド感を両立させています。
T様のジョーダン1も、これによって再び“かかとの芯”を取り戻しました。見た目だけでなく、足を入れたときの安定感もまるで新品のように甦ります。


■ ソール内クッションをEVAスポンジで再生

続いて、ソール内のクッション交換です。


オリジナルのウレタン系素材は加水分解して使用不能のため、代替としてEVA(エチレン酢酸ビニル)スポンジを使用しました。

EVA素材は軽量で反発性に優れ、しかも加水分解しにくいという大きな利点があります。
スポーツシューズやサンダルのミッドソールにも多く採用されており、長期的な安定性という点では、ウレタンよりもはるかに信頼できます。

クッション性を保ちながらも沈み込みすぎず、程よい弾力を持たせるため、厚みと密度を慎重に調整しました。足裏の沈み込みが均一になるよう整形し、アッパーとの接合部分もピタリとフィットさせます。ここでの精度が悪いと、履いたときに内部で異音がしたり、部分的な圧迫が生じることもあるため、見えない部分こそ職人の腕が問われる工程です。


■ ソールを再接着し、オパンケ縫いで補強

内部の補修が完了したら、ソールを再度取り付けます。


ジョーダン1のソールはもともと接着主体ですが、当店では耐久性を高めるために「オパンケ縫い」で補強を施します。

オパンケ縫いとは、ソールの側面から底面にかけて、ぐるりと縫い付けて固定する伝統的な手法で、靴の構造的強度を格段に高める方法です。
単なる装飾ではなく、アッパーとソールを物理的に一体化させることで、再剥離のリスクを最小限に抑えます。

この縫製には「八方ミシン」という特殊なミシンを使用します。
一般的な靴ミシンでは届かない立体的な箇所にも針を通すことができ、ブーツやスニーカーの厚みある構造にも対応できる優れものです。


八方ミシンによる縫い上げは、力強く均一で、見た目にも美しいステッチラインを描きます。


■ 修理後の仕上がりと履き心地

仕上げ後のエアジョーダン1は、見た目こそ修理前と変わらないものの、履いた瞬間にその違いが分かります。
沈み込みのない安定したクッション性、かかとを包み込むしっかりとしたホールド感。
これらはすべて、内部構造を丁寧に再構築したからこその成果です。

スニーカーの修理というと、外側のソール張替えや接着補強が中心と思われがちですが、実は「内部の再生」こそが最も重要な要素のひとつ。
加水分解してしまったクッションやヒールカウンターを放置すると、見た目はまだ履けても、足には確実に負担がかかります。
内部構造を新品同様に再生することで、靴本来の機能性が甦り、結果的により長く快適に履くことができるのです。


■ エアジョーダンの修理で大切なこと

エアジョーダンシリーズは、モデルによってソール構造や素材の仕様が大きく異なります。
初代ジョーダン1は比較的シンプルなカップソール構造ですが、後期のモデルではエアユニットや樹脂パーツが組み込まれ、修理の難易度が格段に上がります。

特にウレタン系素材はどんなに見た目がきれいでも、経年で内部から劣化が進むため、長期保管品は要注意。
湿気の少ない場所に保管し、ときどき風通しをしてあげることが、加水分解を遅らせる最も有効な方法です。


■ まとめ

今回の修理内容は以下の通りです。

  • ソール内クッション交換(EVAスポンジ製作)

  • ヒールカウンター交換(本革製)

  • 内張り再接着

  • ソール再接着+オパンケ縫い補強

外観を崩さず、構造的な耐久性と履き心地を取り戻す修理でした。
見えない部分の再生こそ、靴修理職人の技の見せ所です。

T様、このたびは遠方よりご依頼ありがとうございました。
エアジョーダン1が再び快適に活躍してくれることを願っております。


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