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日別アーカイブ: 2026年2月3日

ニューバランス576 ウェッジヒール修理事例(岡山県赤磐市 M様)加水分解による

こんにちは。靴修理専門店として、日々さまざまな一足と向き合っている私たちですが、今回ご紹介するのは、岡山県赤磐市にお住まいのM様からお預かりした「ニューバランス576」の修理事例です。

ニューバランス576といえば、クラシックなランニングシューズの代表格として、長年にわたり多くのファンに愛されてきたモデルです。上質なスエードとメッシュの組み合わせ、程よいボリューム感のあるシルエット、そして履き心地の良さ。単なるスニーカーという枠を超え、生活の一部として日常に寄り添ってくれる存在だと言えるでしょう。M様もまた、この576を長年大切に履き続けてこられたとのことでした。

しかし、どれほど大切に履いていても、経年劣化だけは避けられません。今回お預かりした576で最も深刻だったのは、ウェッジヒール部分の「加水分解」です。ミッドソールやヒールに使われる素材の中には、空気中の水分や湿気と反応することで、内部から劣化が進んでしまうものがあります。特にポリウレタン系素材は、この加水分解を起こしやすく、見た目はそれほど傷んでいなくても、突然ボロボロと崩れてしまうことが少なくありません。

M様の576も、まさにその状態でした。ヒール部分を軽く触っただけで、表面が粉を吹くように崩れ、歩行時には安定感が失われてしまう危険な状態です。このまま履き続けるのは難しく、修理が必須でした。

今回の修理方針として私たちが選んだのは、「EVAスポンジを使用したウェッジヒール部分のみの交換」です。アウトソール全体を交換する方法もありますが、M様はオリジナルの雰囲気や履き心地をとても大切にされていました。そのため、必要な部分だけを的確に直し、元のスタイルをできる限りキープすることを重視しました。

まずは、劣化したウェッジヒール部分を丁寧に取り除きます。加水分解した素材は非常にもろく、無理に剥がすと周囲の健全な部分まで傷めてしまう恐れがあります。状態を見極めながら、少しずつ、慎重に分解していきました。その後、新たにEVAスポンジを成形し、元の高さや角度、シルエットを忠実に再現します。EVAスポンジは軽量でクッション性が高く、加水分解にも強い素材のため、今後も安心して履いていただける仕様です。

接着後は、見た目の違和感が出ないよう、細部まで調整を行います。横から見たときのライン、地面との接地感、左右のバランス。どれか一つでもズレてしまうと、履き心地に大きな影響が出るため、ここは職人として最も神経を使う工程です。仕上がったウェッジヒールは、オリジナルと見比べても遜色ない自然な仕上がりとなりました。

さらに今回、もう一つ重要な修理ポイントがありました。それが「ヒールカップ」です。ニューバランス576のヒールカップは樹脂製ですが、こちらも経年劣化により硬化が進み、ひび割れの兆候が見られました。純正の樹脂製パーツは、すでに入手が非常に困難な状況です。そこで私たちは、丈夫な本革を使用し、代用品となるヒールカップを一から製作することにしました。

本革は、適切に加工・縫製することで高い耐久性を発揮します。まずは型取りを行い、足をしっかりとホールドできる形状を設計。その後、革を成形し、靴本体に丁寧に縫い付けていきます。ミシンの入れ方や糸のテンション一つで、仕上がりの強度が大きく変わるため、ここでも細心の注意を払いました。

完成した本革ヒールカップは、見た目にも自然で、むしろオリジナル以上に高級感のある印象です。何より、かかとをしっかりと支えてくれる安心感があり、長時間の歩行でも疲れにくい仕様となっています。

すべての工程を終え、最終チェックを行った576は、再び日常で活躍できる一足へと生まれ変わりました。加水分解によって「もう履けないかもしれない」と思われがちなスニーカーでも、適切な修理を行えば、まだまだ現役で使い続けることができます。

M様からは、「また安心して履けるようになって本当に嬉しいです」とのお言葉をいただき、私たちも大きなやりがいを感じました。お気に入りの靴には、その人の思い出や生活の歴史が詰まっています。それを次の時間へとつなぐお手伝いができることこそ、靴修理の醍醐味だと改めて感じさせていただいた事例でした。

加水分解してしまったウェッジヒール、割れてしまったヒールカップ、他店では断られてしまった修理内容でも、まずは一度ご相談ください。素材や構造を見極め、お客様にとって最善の方法をご提案いたします。

お気に入りの一足を、これからも長く、快適に。私たちは、そんな想いを込めて、今日も一足一足と向き合っています。

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