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日別アーカイブ: 2025年11月17日

総社市 I様 ニューバランス993 オールソール交換修理 (Vibram 762K / 一体型カップソール仕様)

総社市 I様

ニューバランス993

オールソール交換修理

(Vibram 762K / 一体型カップソール仕様)

ニューバランス993といえば、アメリカ製ランニングシューズの中でも特に完成度の高いモデルとして人気の高いシリーズです。独自のABZORBクッションやENCAP構造がもたらす柔らかな履き心地、そして「990番台らしい」クラシックなデザイン性を兼ね備え、今も多くのファンを持つ一足です。しかし、その優れた履き心地を支えるヒール構造の一部にはポリウレタン素材が用いられており、経年による加水分解(素材崩壊)が避けられないという問題があります。

今回ご依頼くださった I様のニューバランス993も、まさにその“加水分解”が進行し、特にヒール部分のソールが大きく崩れ落ちていました。ポリウレタンは軽量で弾性が高い反面、湿気や加水分解に弱いという特性があり、経年劣化によって突然ボロボロと崩れてしまいます。

■ 状態確認

実際に靴を手に取って確認すると、ヒール部分のポリウレタンはすでに形を保てないほどに崩壊しており、わずかに触れただけでも粉のように崩れていく状態でした。

一方で前足部のスポンジ系ミッドソールは比較的しっかり残っているように見えましたが、ニューバランス993のオリジナル構造は「前後が一体的に動くことでクッション性を発揮する」タイプのため、後部だけを新品交換し前部を残したままの修理は、強度バランスの観点から非常にリスクが高くなります。

また、部分交換を行った場合の接合強度や、前後で異なる素材を組み合わせることによる“ねじれ”も靴の寿命を縮めてしまいます。
そのため I様にも「前足部を含めた一体型カップソールへの交換」という最も信頼性の高い修理方法をご提案し、ご了承いただきました。


■ 3種類のカップソール候補を選定

カップソール交換は、単純に「サイズが合えば付けられる」というものではありません。
スニーカーの形状、土台のカーブ、踏まずの深さ、横幅、接地面の角度など、細かい部分のマッチングが必要で、ソールの選定・加工は非常に重要です。

今回は I様とのご相談のうえで、以下の3種類のカップソールを候補として提示しました。

  1. Vibram 762K(第1候補)

  2. Vibram186C(第2候補)

  3. Vibram893C(第3候補)

「もし取り付けが困難だった場合に即座に次点案に切り替えられるように」と、第3候補まで選んでいただく形にしました。ニューバランスは本来のソール形状がやや独特で、スニーカーの中でも互換の難しい部類に入るため、このような準備は非常に重要になります。

実際に仮合わせを行ったところ、幸いにも 第1候補の Vibram 762K が非常に良い相性でフィット。ミッドソールの厚み、踏まずのアーチ、前後の高低差ともに自然で、元の履き心地に近い形での修復が可能と判断できました。


■ Vibram 762K について

Vibram社の説明では、このソールは元々 トレイルランニング用 に開発されたモデルとのこと。

ただし I様の靴に使用した 762K は、アウトソール配合が タウンユース向けの「XS TREK」 仕様に改良された特別モデルです。
XS TREK は滑りにくさと柔軟性を両立させた万能ラバーで、普段履きだけでなく軽いアウトドア、ジョギング、ウォーキングにも対応できる幅広い性能を持っています。

さらに、762K の特徴として

  • 厚みのある凸凹形状のアウトソール

  • クッション性の高い EVA ミッドソール

  • 靴の踏まずをホールドする TPU サイドパーツ

これらが一体となった 「総合性能の高いカップソール」 である点が挙げられます。

特にTPU(熱可塑性ポリウレタン)パーツは、柔軟性と耐久性を併せ持ち、踏まず部分のねじれを防ぎつつ自然な歩行をサポートしてくれます。

元のニューバランス993とは構造が異なるものの、
“屈曲性は損なわず、安定性はむしろ向上する”
という良いバランスで仕上がるため、カスタムとしても非常に人気の高いソールです。


■ ソール交換作業の流れ

修理工程は以下のとおり丁寧に行いました。

● 1|オリジナルソールの完全分解

加水分解した部分はすべて除去し、残っているスポンジ素材も含めて“土台となる部分”をフラットに整えます。加水分解は一見ヒール部分から始まっていても、前方部分にも細かな劣化が進んでいる場合が多いため、靴全体をまんべんなくチェックします。

● 2|接合面の整形

カップソールは土台との相性が重要なため、靴の底面ラインとソールの形を細かくすり合わせます。特に踏まずの角度は2mm違うだけで履き心地が変わるため、削り・微調整を何度も繰り返します。

● 3|圧着・成形

専用のプレス機と手加工を併用し、ソールを立体的に密着させていきます。
ニューバランスのアッパーは柔らかいため、圧をかけ過ぎないよう慎重に調整して作業を進めます。

● 4|サイドの最終調整

カップソールの側面ラインがアッパーと自然につながるよう、細かな処理を行います。特にTPUパーツの部分は硬いため、小さな段差でも違和感につながるので入念に調整を行いました。


■ 完成後の状態

仕上がりは非常に自然で、アッパーとのバランスもよく、I様の993が新品のような姿を取り戻しました。
Vibram 762K の厚みと反発力により、着地時の安定感が増し、オリジナルの柔らかいクッション性とは違う方向性ではありますが、歩行の“前へ進む力”が感じられる履き心地になったと思います。

また、XS TREK 配合のおかげで、
ウォーキングはもちろん、軽いジョギングにも安心して使える仕様 になっています。


■ I様、この度はご依頼ありがとうございました

ニューバランス993は構造上、ソール交換が難しいモデルのひとつですが、今回のように カップソール交換で新たな履き心地を得るカスタム修理 はとても相性の良い方法です。

これからもまだまだ長くご愛用いただける一足として、ぜひ活躍させていただければ幸いです。

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